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「東京物語」に捧げられた映画 「東京家族」 monochrome16

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光さす食堂(吾妻小舎) Monochrome 15


 TVの宣伝に煽られつられ映画館へ、封切となったばかりの山田洋次監督「東京家族」をみてきた。それでその 映画のお尻部分から今日のブログが始まるので 誠に申訳ない。


 込み上げてくる感情で泣き面になったのを見られるのはイヤなので、館内に明かりが灯るようになっても席を立てないでいた。そんな時、終映の字幕、エンドロールが流れるスクリーンに「この映画を小津安二郎監督に捧げる」めいた文字がチラリと映された。「東京家族」の出生をこの時に知った。前知識もなく山田監督作品というだけでシルバー料金の映画館に入ったのでこの映画が生まれた背景なんてわからなかった。じつは上映途中から妙な感じがしていて、演じるタッチが何かに似てるなぁ?と疑問符を周吉役の橋爪功さんに抱いていた。この映画を見終えるまでずっと、それが何かを思い出せないでいた。

 で、この字幕でやっと、あぁ!あれは笠智衆さんの動きだったのか、と遅まきながらモヤモヤがとれた。主演で父親役の橋爪功さんは 原本「東京物語」の笠智衆さんをイメージして演じていた。いやいや、俳優さんをモノマネの如くに例えるのはとても失礼なことだ。が、72歳という人物設定には過度な半ば硬直した仕草(失礼!)や、首をほんの少し回し顔を手向ける姿や 台詞をぶっきら棒に云うあたりは それが誰かの演技そっくりだと私に思わせていた。字幕「小津安二郎監督に捧ぐ・・・」の段になってやっと 誰かの誰が、じつは笠智衆さんだと確信したわけ。


 小津安二郎監督の映画「東京物語」では(他の作品でもそうだが)何でもない淡々とした日常の中に当世風な世情をあらわした人物を登場させる。例えば、東京に暮らす長男も長女でさえも尾道の重篤の母を見舞うのに喪服を用意し東京を発つ、こんな風に60年前の都会人の当世風、合理的な割り切り感をドライに演じさせている。また70年前の太平洋戦争や 2年前の東日本大震災、その時代、その時代の象徴的な大事件にあって、「まとまっているように見えても崩れやすいし、いつかは離別するもの それが家族」というメッセージを観るものにも残してゆく。

それを如何にとらえるかは受け手側の問題でもあるのだが それは当映画で周吉夫婦の東京旅行での妻の急死にまで急転させ、人間、家族、命の脆さの一つとして映しだす。山田監督の作風の違いとでもいうのだろうか、小津映画のもつ淡々さに山田映画の温かみという一味をふわりと加えたことに表れる。

それは旧いFIAT500を登場させその旧さに愛着を持つ次男の「ほんのり」感をキャスティングさせたり、母が無くなる前夜、初見の紀子(次男の恋人)と一晩で意気投合させるあたりに「未来」とか「明るさ」といった期待感を一条の光として差し込ませたりもする。さらに島の隣家に住む少女役の投入により島に残る孤老周吉の明日が朧気ながらも「生活の再生」として映し出される。 

大きな違いといえば 戦争未亡人という過去を背負う小津映画の紀子(原 節子)と 二男との明るい未来を描く現代版山田映画の紀子との対比、独居老人を温かく包む島の人たちの登場など、小津映画と山田映画との違いは随所に散見できる。もっとも 東京物語では戦死した次男が 東京家族では生きてることになっていたり、原節子の未亡人役が井 優になっていたり・・・と筋書きは変えられている。

 昭和28年に戦後の混乱を経て作られた映画と平成24年に東日本大震災を経て作られた現代の映画と、総じて 山田監督が明確に加えたのは震災後の「希望ある未来」のようにも思える。二つの映画を通して 未来を見つめる先がどれだけの明るさを持って見えているのか、その違いがわかってくる。 と同時に それが映画の「時代性」なんだということに受け手も気づかされ 山田作品に理解に深みが備わってくる。

70年という時を越え「東京家族」に加味されたのは「希望ある未来性」。孤独となっても東京の息子たちに頼らずに瀬戸内の慣れ親しんだ土地で生き続けるという周吉の姿に、震災での被災者の姿を重ねてしまう。つくづく映画というものは時代性を担わされてるものだなぁと思った。

 映画作りの手法という目で見るなら、瀬戸内の周吉宅に帰ったことを強く印象に残すシーン、壊れかけの玄関灯を映し、蛾がパサパサパサパサと蜘蛛の巣や埃の被った電球のガラスを叩く羽音を執拗に5秒ほど協調するところなど 最近では珍しい手法だ。そのことで観る者に華やかな東京から一挙に瀬戸内の小島に場面を急転させてしまうシーンだ。それは昔の映画作りに似ており、椿や桜の花が散り落ちるシーンで不吉を暗示させる手法と同じで、旧さをワザワザ狙った意図を感じる。
 
 この映画を見て原作本に遡ってゆく思考もありかもしれない。山田洋次監督の現代版東京物語「東京家族」、ぜひ映画館に出向き あなたの乾いた心を自身の涙で潤してみてはどうだろうか。あれから2年などと軽々には言えぬが 是非とも震災時の想いをこの映画に繋げ 観てもらいたいと思う(完)
 
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by tabi-syashin | 2013-01-21 15:11 | 書棚紹介 | Trackback | Comments(0)