山を偲び、友を偲ぶ  虎毛沢遡行(下)

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天空の湿原 虎毛山のいただき






朝もやの中、濁りが僅かに残る沢床に おそるおそる足を踏み入れ 感触を確かめる。 


ああ これで帰れる・・・。 


歩みを進めながら、変わり果て 荒れ果て 薙ぎ倒されたいくつかの台地を眺めて・・・
昨夜 我々に与えられた台地が いかに最強最善の陣地であったかを知る。
保水能力を持たない沢の宿命か、虎毛の沢は山肌からの倒木で埋められていた。

両岸のスラブに僅かに身を支えていた根さえも 耐えきれぬ程に浮かされていた。
その頂点の梢が沢水に浸って長らえている姿が 哀れである。

沢は底荒れの所為か浮石で男どもを悩ませた。 雪渓の残骸があるのか?、、、靄が漂う。
崖を回り込めば 案の定、スノーブリッジがその片足を失い山肌に半身を預けていた。

昨夜は荒れたであろう二俣には1時間で着いた。

この二俣はタマガワホトトギスの黄色い花で左岸はすっかり埋め尽くされていた。
ホトトギスの緑の茎葉はしっかりとしており、昨夕の増水など夢のようで戸惑ってしまった。



いよいよここからの右俣は小滝の連弾となる。

途中、高度を上げた滑床で黒蜜入りの紅茶を味わい、ミトベ家の畑で採れたトマトと
朝に茹でたばかりの玉子とを戴いた。 とうに背景の一つと化した前森山の頂を見ると、、、
こちらと水平になりつつあることを知る。高度はコンタ1200あたりか。


あと30分程で稜線に抜け出ようという地点 水量は豊富で源頭にはまだまだと思わせる。
忠実に窪を追い続け藪漕ぎなしで夏道に飛び出し、草原に覆われた虎毛の山頂へ向かった。

平らかな頂は 幾百幾千ものアキアカネが 舞い蔽う。
まるで 雲母のような きらやかさの浮楊 だった。

6度目の山頂、、、 草原は秋風に靡いていた、、、 この山の「去りゆく夏」を感じ取った。
既に移ろいの時は 夏から秋へと扉を開け放ちつつあるようだ。




「もう 行っちゃうのか?」

後ろ手にしながら 拗ねた仕草で体を捩らせていた知沙子が 振り向きざまに呟く。

「ああ いろいろと楽しかったよ そろそろ帰らなきゃぁ」

「・・・」

「んんっ?そうか! 昨日の嵐、あれは君の仕業だったのか!?」

「・・・」

「こいつはウカウカしておれんな、今度は君の悪戯にお返ししてあげなきゃな・・・」



この秋の会山行、、、「虎毛山集中」を楽しみに 山頂をあとにした。



                         
2002年発行「やまびと季報」Vol.23(上巻) 
故 池田知沙子に捧ぐ
文 もときち




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この池塘の先、紅葉の陰がダイレクトクーロアールだ


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by tabi-syashin | 2015-11-12 08:07 | Mount Torage | Trackback | Comments(0)