山を偲び、友を偲ぶ  虎毛沢遡行(中)


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さらに一年前の夏、、、春川出合いで3隊に分かれる
自分はダイレクトクーロアールを遡行し虎毛山頂へ




稲妻が走り 反響を繰り返しながら雷鳴が頭上に近づく、轟音とともに沢が濁流となる。

この間 僅か小半時。生と死の境というものはこんな場面を差すのか? 安心の場を得たと思った途端、、、かつて遠藤甲太が書き記したように「カタストロフィに飾られて」、恐怖は襲い来る。

その濁流の沢を バリッ、バリッ、音をたて今日の陣地を襲わんと岩が押し出される。今は天が支配する時。自然という舞台で弄ばれた三文役者の如く、我々はのた打ち回って5m上の段丘に退却した。

すでに、、、テン場には上段のブナ林に退避用ロープを結わえ済みで 準備よろしく垂らしてある。
こういう勘所はまるで「訓練」でもしてるかのよう。沢泊まりの際に逃げ道の確保については手抜きをしてこなかった証しだ。思わぬところで 証のそれが役に立ち、計算したわけでもないのに巧くいってるので 苦笑いする余裕が生まれた。

詰めれる物はザックに投げ入れ、担ぎ上がった。オオタが最初に上がり、次にミトベが洗い終えた米をいれ、炊きあげるだけの飯ゴウを上段のオオタにリレーする。

自分は銀マットとツェルトを首にぐるっと巻きザックを背負って、置き忘れたままの所持品の有無を確かめ退避した。オオタは慌てたのか?行動食の握り飯をポケットから落としてしまい、泥に転がり落ちるそれを見やって悔しがっていた。

恐ろしくも激しい濁流を眺めつつ、明日の山行を慮りおろおろする。人間など如何に在ろうと、これほどの猛威に為す術もなくただ茫然と立ちつくし荒れ狂う沢の治まりを待つだけである。

「おい、男がブルッてどうする!」 

若い二人は初めての経験に泡を食ったようだが、生きていれば こんなことの一つや二つ 無かろう筈があるまい。



飛びかう泡沫が消え 流れも落ち着きを見せた夕刻、テン場に下りた。ツェルトを貼り直し 焚火にメタを投じた。いつもの宴は 小さな明かりを灯すように静かに始まる。
焚火がどれほど心を癒し、勇気づけてくれるものか、、、 この時ほど焚火のありがたみを感じた時はなかった。

熾火で釣り上げた魚の肉汁をじっくりと飛ばす。焚火に放り込んでおいた焼き茄子を口にほおばる。瞬間、生姜醤油の香りがツンと鼻をついた。アルミホイルに包んで火床に置いた玉ネギが煮え、ホイルの穴から湯気を吹き出している。
レーズンバターの1切を加え、醤油を差し美味しく戴いた。地味ではあるが じつに落ちつき払った、心豊かな酒飲みだった。

酒をキュンと煽り、恐怖からの解放を筋肉の弛緩とともに味わい ことさら楽しんでいるかのよう。消えていた笑いが安寧とともに蘇る。大いに実感したであろう危機回避の手づるを各々とも反芻したに違いない。これはこれで山を肌で感ずる貴重なひと時なのだ。

じつのない浮かれ愉しむ山など 男どもには似合いはしない。 中年になって・・・、そんなことはとうに知り尽くしている。


静かな夜更け、天を仰げば星、、、明日の青天は克ち得たり・・・。
しとどに濡れる闇がその深さを増したころ 張りなおしたツェルトに 酔いの回った身を転がり込ませた。





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これは坪毛沢・・・坪毛沢遡行-西ノ又下降時の写真


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by tabi-syashin | 2015-11-12 07:56 | Mount Torage | Trackback | Comments(0)