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山を偲び、友を偲ぶ  虎毛沢遡行(上)

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湯ノ又大滝




虎毛山を囲んで十数本の沢水を集め、皆瀬川は夏に入ったばかりの渓谷をゆったりと流れている。



ブルーグレーな沢床を一層濃くさせながら、水面はキラキラと光の反射を繰り返し ゆったりと明るい渓相の連なりである。黒い幽谷から流れ出る奥会津の渓とは大きく違っていた。

田代沢林道から皆瀬川を徒渉し、いとも簡単に春川の出合いに達した。出合いはトロッコの軌道敷跡のコンクリート支柱を立てて、いつもの虎毛沢へと誘う。

思い出多い、青味を帯びた戸沢入口は数年前の大地震で崩れた倒木によって遮られていた。赤湯又沢の出合いに至るまで山肌は大きく崩落の痕跡を連続させ、情感さえも抉り取り去るかのようだった。

赤湯又の出合い、ここの小さなゴルジュは硫黄泉質の混ざりあいのためか この溪の中では異様さを際立たせる。ここで、先日この出合いに吊り下げた無為な赤布をようやく回収する。




知沙子なる 逝きにし友を 偲びつつ 
 赤湯又の ゴルジュを越える




虎毛の沢は山人を楽しくもさせ、浮かれた夜にはさぞかし心を打つ宵を与え、見過ぎ世過ぎの身の垢をも洗い流してくれたことだろう。この赤湯又はそんな魔力をことさらに秘めたところだ。

ここからは少しずつ竿を出しながら行くはずだったが・・・先行したであろう釣師は我らを嘲笑うかのように、自慢気に重そうな魚籠を抱えて立ち止まる。殺生を自慢するような奴は早く立ち去ってくれ! 数十尾を釣り上げてどうするというのだ?

情景を破壊した先行者は虎毛上空に黒い雲が発生しつつあることを言い残し去っていった。素麺を茹で沢水に晒し、啜る。真夏の沢にはこれが実に堪らん。飯を終え、山女魚止めを過ぎてから竿を出し始める。一尾二尾と上げ 竿をしまった。

黒く重い雲が見え雨の予感がして 左右のスラブ壁を一瞥しながら滑床を小走りで駆け抜け、今宵の幕場を得ようと急いだ。赤紫の亀甲紋様が鮮やかな滑床に至って幕場に着いたことを知る。

右岸台地にフライを張り、ツェルトを構え、柴木を集め、疲れを癒す今宵の地味な宴の場をこさえ終わると、我慢の限界とでもいうのか 大粒の雨がブナや笹を打ち始めた。



土砂が沢を濁す前に、コッヘルに水を汲み米を研ぎ やがて来るであろう夏の嵐を待った。



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by tabi-syashin | 2015-11-11 21:27 | Mount Torage | Comments(0)